東京で芸能活動をしている同級生に片思いしている埼玉県の男子高校生の心情
以下は「東京で芸能活動をしている同級生に片思いしている埼玉県の男子高校生の心情」をテーマに、私が書いた文章である。
この文章を読んで、あとの問いに答えなさい。
清水さんは東京でアイドルをしているらしい。
らしいというのは、僕はその姿を直接に見たことがないからだ。
同級生からYouTubeのリンクが送られてきても、開く気にはならなかった。
学校の外の彼女なんて、知りたくもなかった。
冷やかし半分の同級生、特に男子は、清水さんの話題でもちきりだった。
埼玉の片田舎では、ゲーノー人なんて誰も見たことがないのだ。
でも、影ではあれだけ噂してるくせに、彼女に話しかける者は少なかった。
親しくしている1人2人の女子を除いて、清水さんがクラスメートと会話している姿を見たことがない。
それは誰にも踏み入れられない聖域のようなものだった。
そして、あたりまえのように、僕は彼女に恋をしていた。
あれは6月のことだった。
朝には快晴だった空が一転、昼過ぎには土砂降りの雨になった日。
「傘なんて持ってきてないよ!」クラスが沸き立つ。
文句を言いながらも、心の底では楽しんでいる同級生たち。
朝、母にビニール傘を無理やり持たされた僕は、雨が止むまでクラスで待機している女子や、玉砕覚悟で下校ダッシュする男子を横目に、校門に向かっていた。
校門近くの自転車置場には、雨宿りをしている清水さんがいた。
傘を忘れたのだろうか。
僕と二人でひとつの傘に入りましょう、なんていう勇気は僕にはない。そんなの無理だ。
でも、傘を貸すくらいなら…
「清水さんっ」
その小さすぎる声は、彼女の耳には届かなかった。
僕は二の句をつぐことができないまま、その場に立ち尽くした。
清水さんは、パッと走り出すと、校門の近くに停めてある車に乗り込んだ。
その車には、髪をピンク色に染めた若い男が乗っていた。
助手席に座り、タオルで頭を乾かしながら、学校では見せたことがないような笑顔で、男と談笑する清水さん。
見てはいけないものを見てしまった。
僕の心臓が高鳴る。
すると、校舎から出てきた生徒指導の先生がつかつかとやってきて、車の窓をノックした。
髪をピンク色に染めた男は、運転席の窓を開けるや、その外見とは裏腹に、とても礼儀正しい挨拶をした。
「いつもお世話になっております。清水のマネージャーをしている佐藤と申します。
今日はこっちで仕事がありまして。時間もあまりないので直接迎えにきてしまったんですよ。校門の近くに車を停めてしまい、すみません」
「ご苦労さんです。敷地内に来客用の駐車場がありますんで、次回からそちらを使ってくださいな……」
車が走り去ると、僕だけが取り残された。
「おー、中原、どうした、ひどい雨だ、早く帰んなさい」
なんでもありません、すぐ行きます、そう答えたけど、僕は、僕はどこにもいけない。
問:下線部の「僕」の心情について、最もふさわしいものを以下の選択肢から選びなさい
- 傘を持っているものの、あまりの土砂降りで下校することができないと、困り果てている
- 東京で芸能活動をする清水さんと、片田舎でくすぶっている自分を比べ、焦燥感に苛まれている
- 清水さんと親密そうに話をしている佐藤マネージャーに、嫉妬している
- 聖域に踏み入る勇気がない者は、その先に進めないと気づき、落胆している